KARIN

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花梨 the first solo exhibition〝 ⇆  encases 〟

 LONGY初のExhibitionを5月27日friから5日間に渡って開催する。誘致したのはモデルとしての活動だけでなく、作家としてのアートワークに様々なメディアが注目する1997年生まれの女性、花梨だ。東京に生まれ、彼女のアートワークの象徴ともいえるコラージュ作品の創作は中学2年の頃から始めたという。Solo exhibition としては初の開催〝 ⇆  encases 〟と題した。展示に込めた想い、作品を通じて届けたい願い、そして彼女のアイデンティティについて、開期直前の5月24日に伺った。

個展を『 ⇆ encases 』と題した意図は?

 作品を創作している時は自分を俯瞰して見ていて、そこから見える自分をコラージュという表現で包み込み、擬人化するような感覚でいます。その工程は自分の感情や思考を丁寧に包んでいく作業だとも考えていて『encase(包む)』を題の軸としました。自分の感情や思考を俯瞰していているのはもう一人の私(she)と捉え、三人称単数の『s』をつけて『encases』 と題しました。『⇆』は包む作業が先の場合もあれば、包んだ後に新しい感情が生まれる場合もあるので、その双方の同線を意味しています。生まれた卵が先か、生む鶏が先か…というような感覚です。

コラージュを自身の表現としたきっかけは?

 昔から自分が好きなモノを作ることや、好きな素材や作品をスクラップしてまとめることが好きで。そこに絵を描き足したりしていたんです。最初は工作的な感覚で、ただただ楽しんでいました。両親の影響もありアートは身近で、進学も自然と美大を目指すようになりました。そのために美術専門の予備校に通い出し、技術的な事も含め、本格的に美術について学ぶようになりました。ただ、デッサンは上手にかけても、そこから色を乗せたりする工程で、作画としても作風としても派生させることがなかなかできなくて。正直、当時はデッサンすら楽しくないなという気持ちもあったんです。「これはこう描かなくちゃいけない」ということに縛られていたんだと思います。「なんで四角を四角で描かなければいけないんだ…」とか当時は考えていて。

 ある時、描いたデッサンに別の作品を切り貼りしたことがあったんです。そうしたら、自分の中で想像がいっきに膨らんで。「こういうことがあってもいいんだ!こんな表現の広げ方もあるんだ」と思い、そこから絵を描かなくなり、コラージュに没頭するようになりました。何らかの意味を持って成しているモノを、想像して違うカタチに置き換えることがどんどん楽しくなって。美大に通い出してからも様々な表現を学び、創造して来ましたが、ひとつの事をしっかり極めようと思い、20歳の頃からコラージュという表現を軸にしていくことを決めました。

作ること、表現すること、そして作品を通して伝える事については?

  小さな頃はとにかく思いついたモノを作って、ただただ遊び感覚で表現をしていました。それこそ自分の顔を粘土で型取って、そこに色を乗せたり切り貼りしたり。それを両親や、友達たちに見せて反応を見る事も好きでしたね。音楽を聴いて、そこから描きに繋げたり、自然とカルチャーを通したアートという表現はフィットしていたように思います。
 本格的に作品を通じて何かを届けること、表現する事については、予備校時代にしっかり学び、大切さを感じるようになりました。ただ作るだけでなく、毎回先生に作品についてプレゼンをする必要もありましたし、作品を誰かに見てもらうことの喜びや、作品を通じて人にメッセージを伝えることの重要さもその頃から意識するようになりました。

 話は少し変わりますが、私、中学生の頃まで妖精の存在を信じていて。中学ですが、卒論を提出する必要がある学校で、妖精の存在を実証したく、妖精にまつわる文献をとにかく読みあさった時期があったんです。結論として、認めたくはなかったけれど、妖精は人の想いや願いが擬人化されている存在なんだと理解し、その擬人化という背景やストーリーは、今の私の作品や、作風の根幹になっていると考えています。

今回の個展で届けたい想いは?

 展示空間を別世界として、私の世界に入り込んで欲しいなと思います。映画を見るときも、映画館という場所で、暗闇の状態という別世界で作品に触れる、そんな異空間に人を連れて行ってあげられる入り口のような展示になればいいなと思っています。今回、そういった意味も含め、私の作品の中でも特に強い、意思が強く乗った作品を選んで展示させていただいています。また、あえてひとつだけ違うテイストの作品も加えさせていただき、そのストーリーを、それぞれの価値観も重ねた上で感じ取っていただければと思います。帰り道、見える世界が少しでも変わってくれたらいいな、そう願っています。

 作品ごとにコメントをお願いします。

Title:stay home

Creation date :2020.05

 コロナの自粛期間を描いた作品です。STAY HOME期間の自身を俯瞰した状況を描きました。大変な時期で様々な方が苦しんだ時間だったとは思うのですが、私自身は、外に出ない状況をある意味楽しんでいたんだと思います。今見ても、結構、愉快な感じで描かれているなと感じますし、暗い世の中だったので、ダークさを排除して、綺麗な作品にしたかったということもあったんだと思います。ダークなモノを美しく見せることで深みを出したかったという側面もありますね。家をたくさん描いたのは、この状況下におかれているのは皆同じという意味で、家から飛び出す花は、仕事で外に出ている人、私たちの想像の力を(家から飛び出してどこまでも自由に想像できる力)表しています。俯瞰した構図で地面はどこまでも深く抜けている。底を作らない描写が、この作品のポイントです。

Title:Nourishment
Creation date :2021.06

 

 Nourishment(栄養)がテーマです。人々が栄養を補給する様を、花たちが水を吸いに来ている姿として描きました。きっかけは友人が企業に勤め出し、喫煙所コミュニケーションという文化があることを聞いてビックリして。ご飯に行くわけでもない、決まったミーティング時間に集まるわけでもない、喫煙というひとつの行動で、まとまっていくそのコミュニティがとても奇妙だなと感じて。その行動を花が水を吸いに行く、という描写に転化しました。

 Title:22
Creation date :2021.12

 これは2021年12月30日、大掃除が終わってから作った作品です。2022年の日本を、そして自分の姿を思いを、好きな景色、モノを詰め込んで描きました。日本を象徴する風景が並ぶ中で、山から海への川の流れを宇宙で表現し、月同士の女の子たちが楽しく会話をしている。そんな私のメルヘンな気持ちを表現した作品です。

Title:憂鬱な上司
Creation date :2022.03
 
 

  これも会社員になった友人たちと過ごした時間がきっかけで。地下にあるバーで、スーツを着た友人同士が上司の愚痴を話していて。スーツを着て憂鬱そうなその姿が、何だか重たい鎧を来ている姿に見えて、ブリキ質感でスーツを描いたんです。地下の薄暗い雰囲気で、なんとなく深海っぽいなぁと思っていて。そう思うと、なんだか愚痴を話しているその二人が海にいる魚に見えてきて(笑)。魚たちがバーに集まって、会社の愚痴をこぼしていたら面白いなと思って、その次の日にこの作品を作り出したんです。私は魚をよく作品に組み込みます。宇宙とか、深海とか、そういった広大な、また未解明な空間が想像を引き立たせてくれて。魚と人間を作品の中で融合させると、その想像が自分の中でいっきに具現化されて。また、この作品を見た人が魚を見るときっと海とか川とかを想像したり、紐付けたりすると思うんですよね。そのストーリーを導き出せるのも面白いなと考えているんです。

Title:supermarket
Creation date :2018.12

  果物が加工工場からスーパーマーケットに運ばれていく映像を見て、そこからインスパイアされてこの作品を作りました。月にあるスーパーマーケットに果物が出荷されていく工程がイメージで。頭にソフトクリームを乗せている人が、道路として描いたベルトコンベアに流れる商品をチェックしている、そんな描写です。この当時は土星にハマっていたんです。土星は実態がないのに、あんなに大きな星と言われている、しかも近寄ったら吸い込まれちゃう、そんな所に惹かれていて。フォルムやそんなミステリアスな部分が、なんだか女性らしいなとも思っていて、よく土星を組み込んだ作品を作っていました。

Title:no-title
Creation date :2022.03

 

 この作品だけは、自分を俯瞰して描いたモノではなく、自分自身の内面を表に出した、私の中では少し珍しい作品です。ある出来事があって、私はなかなかそれを許すことができなかった。その出来事は、今はもう忘れてしまうほど些細な事なのですが、その時に生まれた作品です。大きな雲が気持ちのモヤモヤで、雲は釘で固定され、鋭い鉄の雨が降っている。なかなか気持ちが思うように次へ進むことができなくて、何だか釘に刺されているような心境だったんです。下の銀の3段箱は、私の中での3段階の気持ちを表しています。許すことは、生きていく上で最も大事で、難しい事だと考えた時に、その思考の過程を作品にしたいと思いました。この作品が皆様にどう捉えていただけるか、その反応も楽しみたいと、少しテイストは違いますがこちらの作品を展示させていただくことにしました。 

 

ARTIST PROFILE   花梨 / KARIN

撮影:髙木健史(SIGNO)

1997年、東京都生まれ。中学二年のころからコラージュ作品を創り始める。モデルとして活動の他、広告、国内外の雑誌、音楽・映画関連へのアートワーク提供、アパレルブランドや店舗とのコラボレーションTシャツの発売など、制作の幅を拡げている。2022年8月19日よりにALギャラリー(渋谷区恵比寿南)にて個展開催予定。