Kenta Kawabata
November 19, 2022

Kenta Kawabata


 繊細な筆致で描かれたモノクロームの鉛筆画や、温もりの宿ったリアリスティックな油彩画が印象的なアーティスト、川端健太。2015年に東京芸術大学に入学し、油画専攻首席として卒業。作品は東京芸術大学美術館やコイルセンターフジタにコレクションされるなど、期待の集まるアーティストだ。彼は作品を通して何を問いかけるのか。その思考と制作の背景にあるものとは?

 絵画制作を中心に活動を続ける彼は、いかにしてアートの世界に入ったのだろう。その原点を伺うと「高校3年生までただのバスケ少年でした」と、やや申し訳なさそうに語った。絵を学び始めたのは高校3年生からで、美術よりもバスケットボールの歴が長いという。一見、美術とは遠い印象を受けるが、しかし、その経験は現在の絵画制作において精通する感覚があると教えてくれた。

手の蓄積が残るという意味では、バスケットボールも絵画も同じ

 「球技って、直接ボールを触るじゃないですか。それって手が動くということでもあり、1つのパフォーマンスとして考えると、筆を握って手を動かす絵画と、感覚が似ている気がするんです。バスケはシュートを打つ際に、爪とボールが触れてカチッと音がするんです。ボールを触って、それが離れていくという感覚。絵画はキャンバスに描く際に、筆を使って紙に触れたものが作品になる。そう考えると、バスケも絵画も、いずれも手の行為であり、蓄積が残るもの。その感覚が、絵画制作にも精通しているように感じています」

 そんな彼の作品は解像度の高い写実的なタッチが印象的だが、鉛筆画を選んだ理由は意外にも「油彩画はいくら書いても難しい」ということだった。「もともと鉛筆画は何年もやってたのですが、鉛筆はキャンバスに接触した感じが直接伝わるものだと思っていて、僕にとっては表現がしやすいんです。それに比べて油彩画は、筆が柔らかいので強弱を付けるのが難しい。それだけじゃなく、扱っている道具がどんな特徴なのかも理解しないといけない」

 「最近は依頼をいただいて肖像画を描かせていただくことがありますが、自身で制作する絵と、依頼される絵は大きく違うと感じています。肖像画は、お会いしたことのない人に納得していただける作品に仕上げなければならないという難しさがあります。特に、写真だけの平面的な情報で制作するのは難しい。でも、だからこそ勉強になるし、楽しいんです」

見ているものも、自分自身さえも、俯瞰して捉える

 作品を制作する上で、テーマとなるのは〝 見る 〟ということだそう。「どんな物事でも、それが身近で小さなものでも、きっと複雑な側面があります。あっちから見るとこうで、こっちから見るとこう。そんなふうに、何かを言い切ることは難しい。僕は、色んなことを一元的に捉えることを不自由に思っているので、見ているものも、自分自身さえも常に俯瞰して、物事を多元的に捉えるように意識しています」

その筆のおもむきは、彼の思考をゆっくりと反映していく

 そうした考え方のなかで何か咀嚼できないことがあると、それを絵画を通すことでゆっくりと理解をすることができるそう。「今の価値観も、明日になったら変わっているかもしれない。でも、そんな変化の過程も時間をかけて自分のなかで整理をしたいんです。いつも長い間同じ絵に向き合っていると、考え方が二転三転するんです。でもこれは、自分の考えが変わっている証拠。極力いろんな角度から物事を〝 見る 〟ことでゆっくりと解釈をしたい」

 「今興味があるのは、コロナ禍で直接的にやりとりをする体験が減って、オンラインなどで何かフィルターを通すことが増えたけれど、これって今の時代の1つのアプローチだと思うんです。今自分が当たり前にやっていることは、一体どういうことなのか。絵を書き出してから、自分がどう捉えるだろうか。今後も作品と長期的に向き合っていくことで、自分なりの答えを導きだせたらと思っています」


ARTIST PROFILE 川端健太 / Kenta Kawabata

1994年、埼玉県生まれ。2015年に東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻に入学し、2019年に油画専攻首席として卒業。絵画制作をメインに活動し、これまで個展「Spectrum」 (石川、2021)、グループ展「KUMAEX2021 清澄白河」(東京、2021)、アートフェア「MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 'New Soil’」(東京、2022)などに参加。また「絵画の筑波賞 奨励賞受賞」(2021)、「クマ財団活動支援事業」(2021)などの受賞歴をもつ。

参加予定
グループ展「Art is 」 WHAT CAFE
2022年12月14日(水)〜 2022年12月25日(日)
※ライブドローイング閲覧可能

●アートフェア東京
gallery KOGUREブース
2023年3月10日(金)〜 3月12日(日)(3月9日は招待者のみ)

●銀座six蔦屋 FOAM CONTEMPORAY 個展
2023年3月11日(土)〜 2023年3月23日(木)

●第 26 回岡本太郎現代芸術賞(TARO 賞)
2023年2月18日(土)〜 2023年4月16日(日)

経歴
2015 東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻 入学
2019 東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻首席、美術学部総代卒業
2019 東京芸術大学美術研究科油画技法材料研究室入学
2022 東京芸術大学美術研究科油画技法材料研究室卒業

展示
2019 スプリンクボード2019 上野駅ブレイクステーションギャラリー
2019 芸大.茨大.筑波大卒業修了制作選抜展2019 東海ステーションギャラリー
2019 天空の芸術祭2019 長野県東御市天空ミュージアム他
2020 PLAY GROUND GROUP EXHIBITION IV, SAINT MAISON GALLERY. ロンドン
2021 KUMAEX2021 清澄白河
2021 絵画の筑波賞展 池袋西武本店アートギャリー
2021 個展「Spectrum」石川県金沢市 金澤水銀窟 ギャラリー小暮
2022 Rough Play 岡田佑里奈|川端健太|清川漠 MEDEL GALLERY SHU 東京、千代田区
2022 biscuit gallery first anniversary exhibition「grid」biscuit gallery 東京、渋谷
2022can (not) reach 川端健太|菊池遼|三瓶玲奈|和田直祐 EUKARYOTE 東京 渋谷

アートフェア
2022 MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 'New Soil'
2022 MODERN AND CONTEMPORARY ART FESTIVALフィリピン

受賞、助成
2019 O氏記念奨学金受賞
2019 神山財団芸術支援プログラム2019奨学生
2020 クマ財団4期奨学生
2021 絵画の筑波賞 奨励賞
2021 クマ財団継続支援事業
2022 佐藤国際文化育英財団奨学生

収蔵
東京芸術大学美術館
LS株式会社
株式会社コイルセンターフジタ
株式会社田中企画

掲載
2015 フジテレビ 警視庁捜査一課9係 絵画協力
2018 月刊gallery1月号掲載
2019 美術の窓 5月号掲載
2020 雑誌CODECHAOS JOURNAL adidas イラスト担当


INTERVIEWER & TEXT & EDIT