Yuka Numata

Yuka Numata

 LONGYは今回、現代アーティスト、沼田侑香の個展「SUPER 〈Fiction〉MARKET」を開催する。彼女の作品は、見る人によって懐古感や新奇性を感じるアイロンビーズを使用した作風が印象的だ。リアルとヴァーチャルの境界線というテーマで制作し、既視感のあるものを対象としながらどこか歪んだ作品は、そこに在りながら別世界に存在しているかのような違和感を感じさせる。今展は、天空に突如現れるようなギャラリーの特異性を活かしたインスタレーション(展示空間を含めて作品とみなす手法)で表現したいという、彼女の想いを具現化した展示となっている。個展開催の前に、制作テーマや今回の展示について話を聞いた。


──アイロンビーズ、歪み、どこか既視感のあるものを対象としている、というのが作品の特徴だと感じましたが、それぞれについて考えを教えてください。

 アイロンビーズって、子供のおもちゃというイメージが強いかもしれないけれど、私は素材の見え方というところに着目してアイロンビーズを選んでいます。見え方という点では、デジタル上でモニター越しに見る画像イメージに似ていると思うんです。画像は、ピクセルの集結によって構築されます。これは、アイロンビーズの作品が完成までの過程で構築されることと近しいと感じています。でも、作品自体は平面でもないし、立体でもない。裏表があるのも、モニター越しで見る画像との違いが明確で面白いなと思います。

 あと、アイロンビーズを使う理由として、幼少期に遊んだからというよりは、大人になってたまたま通ったおもちゃ屋さんで見つけて、これが作品になるのでは?と思ったのがきっかけなんです。また、デジタルネイティブ世代と呼ばれることもあるけれど、それは、アナログからデジタルに以降する時代を見てきたという意味でもあると思うんです。私の世代だと、アイロンビーズは懐かしいものという印象を抱く人が多いけれど、それよりも若い世代はアクアビーズというもので遊んでいたりとか。おもちゃがその時代を象徴とする存在になっていると感じていて、だからこそ、作品を見てくれた人それぞれが自由に思いを馳せたり、楽しんでほしいと思っています。

 作品を歪ませていることについては、現実とデジタルの違いを見せるための一つのツールとして考えています。例えば、ゲームの世界だとバグってよく起きるけれど、現実では起こらないですよね。現実の世界でバグを可視化させることによって、モニターのなかで見る世界が現実に起こっているような違和感を作り出したいんです。あと、スマホゲームに没頭している際に急にバグが起きると、これってゲームだったのかということを再確認する瞬間があるんです。これが作品のなかで起こったら面白いなって。

 既視感のあるものを対象とするのは、自分が知っているものが変形していることで、原型が想像できるからこそ生じる違和感を感じてほしいと思っているからです。分かり易いイメージほど、現実に引き込まれる気がしているんです。

──デジタルネイティブ世代…そう言われることに対してアーティストとして思うことはありますか?

 私は、デジタルネイティブ世代であることをポジティブに捉えていて、アナログからデジタルに移行していく時代を見てきたということは、今後の未来に役立つのではないかと思っています。自分たちの世代だけが知っている共通認識がたくさんあって、私はアーティストとして、それを同世代の人たちと一緒に感じていけたらいいなと思っています。

──制作の際に考えていることを教えてください。

 以前より、リアルとヴァーチャルの境界線というテーマで制作をしているけれど、最近は現実世界とデジタル世界の乖離を感じ、それを作品に落とし込んでいます。とくに乖離を感じるのは、近年のNFTやメタバースなどのプラットフォームの出現から、デジタル分野が新しく構築されているように感じるから。それらはこの先の未来でスタンダードになるのか?どんな未来になるのかは分からないけれど、作品のなかからそれが見えたら面白いかなって。そんなことを考えて制作しています。

──今展の制作テーマについて教えてください。

 今回の展示では、作品を通して現実とは何処に在るのか?というのを表現しています。スーパーマーケットって生活に欠かせない場所だと思うけれど、現実と密接な場所だとも考えられる。例えば、デジタル空間から現実というものが映し出されたとしたら、どこが一番現実に近しい場所なのか?また、普段どういった瞬間に現実というものを思い出すのか?ということを考え、今回のテーマをスーパーマーケットにしました。現実との距離が近しいスーパーマーケットという場所に可視化されたバグが共存する空間を作ることで、目の前で認識している空間と対峙し現実とは何処に存在するものなのかということを再解釈できるんじゃないかって。展示作品は、日本やアメリカ、ヨーロッパなどのスーパーマーケットに並んだ商品をイメージして制作したので、そのあたりも楽しんでほしいですね。

──LONGY初のインスタレーションでの展示となりましたが、なぜ、インスタレーションを選んだのでしょうか?

 初めて
ギャラリーを見たときに、1階からフラットに入れるようなギャラリーが多いなか、LONGYは階段で上がっていくと抜けた空間が見えて、天空にいるような空間が特徴的だなと感じました。そこにたどり着いた人だけが見ることができるような、特別な世界を表現したいと思ってインスタレーションにしました。

──作品を通して伝えたいことを教えてください。

 場所性というのも重要視しているので、作品一点一点を見てほしいのは勿論ですが、ギャラリーにいるのに、スーパーマーケットにいるような、また、
スーパーマーケットにいるのに、ギャラリーにいるかのような違和感を感じてもらえると嬉しいですね。

──今後どのような活動をしていきたいか教えてください。

 これまでの作品は写真をベースに加工をしていくのですが、そうではなく、自分で描いたイメージをアイロンビーズに置き換えることで、自分の視点をより見せることができるんじゃないかって。今後は、写実的なリアルなモチーフと、オリジナルキャラクターのようなモチーフが同じフレームのなかに共存するような作品を作るかもしれないですね。

 

Title:かっぱえびせん



 

Title:キャベツ太郎



 

Title:キャンベルスープ

 

Title:バナナ

 

Title:ケチャップ

 

Title:マスタード

 

Title:skittle

 

ARTIST PROFILE 沼田侑香 / Yuka Numata

 

1992年生まれ、千葉県出身。2019-2020年ウィーン美術アカデミーに留学。2022年東京芸術大学大学院修了。
インターネットが日常的に使用されるデジタルネイティブ世代に生まれた沼田侑香は「現実とデジタル世界の乖離とその未来」を想像し制作しています。現代における時代性、特質、世代の特徴をリサーチし、視覚的に作品という形として置換しています。パソコン上で編集、加工したデジタルイメージをアナログな作業によって置き換え、現実世界における次元の超越を図っています。

経歴
1 9 9 2 千葉県出身
2 0 1 4 - 2 0 1 8 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻
2 0 1 9 - 2 0 2 0 ウィーン美術アカデミー
2 0 1 8 - 2 0 2 2 東京藝術大学美術研究科絵画専攻

受賞
2 0 1 9  A - T O M A R T A W A R D グランプリ受賞
2 0 1 8  O 氏記念賞
展示
2 0 2 2 「S E E D 2 . 0 」 / a - s p a c e g a l l e r y / ラインフェルデン/ ドイツ
2 0 2 2 「A R T T A I C H U N G 2 0 2 2 」/ T h e L i n H o t e l T a i c h u n g R O O M 1 1 1 5 / 台中/ 台湾
2 0 2 2 「S E E D 2 . 0 」/ K O G A N E I A R T S P O T シャトー / 東京
2 0 2 2 「ブレイク前夜展P A R T Ⅱ 」 / A r t g l o r i e u x G A L L E R Y O F T O K Y O / 東京
2 0 2 2 「S E E D 2 . 0 」/ Y I Y U N A R T / 台北/ 台湾
2 0 2 2 「O N E F a c e 2 0 2 2 」/ r o i d w o r k s g a l l e r y 1 / 東京
2 0 2 2 「M I X U P # 0 1 」 / N I C K W H I T E / 東京
2 0 2 2 「現実への再インストール」/ r o i d w o r k s g a l l e r y / 東京
2 0 2 2 「S Y N E S T H E S I A 」/ g a l l e r y A 8 T / 宮城県仙台市
2 0 2 1 「ブレイク前夜展i n 仙台」/ g a l l e r y A 8 T / 宮城県仙台市
2 0 2 1  「A R T M A R K E T B U D A P E S T 」/ B á l n a B u d a p e s t / ブタペスト/ ハンガリー
2 0 2 1  「P . O . N . D . 」/ G A L L E R Y X ( 渋谷パルコ) / 東京
2 0 2 1  「Y U Z U T O W N S p e c i a l E x h i b i t i o n 」/ e l e p h a n t S T U D I O / 東京
2 0 2 1  「M a n c a n n o t l i v e b y r e a l a l o n e . 」/ K I T T E 丸の内R E A L b y A r t S t i c k e r / 東京
2 0 2 1 「O n e F a c e 展」r o i d w o r k s g a l l e r y / 東京
2 0 2 1 「曖昧とのランデブー」コートヤードH I R O O / 東京
2 0 2 1 「s a m p l i n g t h e o r e m 」 M o n t b l a n c 銀座/ 東京
2 0 2 0 「R U N D G U N G 」/ ウィーン美術アカデミー/ オーストリア/ ウィーン
2 0 1 9 「A - T O M A R T A W A R D 2 0 1 9 」/ コートヤードH I R O O / 東京
2 0 1 8 「東京藝術大学卒業・修了作品展」/ 東京都美術館/ 東京
2 0 1 8 「世界の砂を露で洗う」/ 引田地区髙橋造船所/ 香川県引田市
2 0 1 8 「シブヤスタイルV o l . 1 1 」/ 西武渋谷アートスペース/ 東京

展示予定
・10月29日〜11月13日 
「USHIKU REDESIGN PROJECT OPENDOORS 」
http://ushikuredesign.com

・11月10日(木)~11月13日(日)
「ARToVILLA MARKET」

・2023 年1 ⽉14 ⽇〜 2 ⽉25日 
「group exhibition(タイトル未定)」
場所:TERRADA ART COMPLEXⅡ2階、Tokyo International Gallery

・2023年2月4日(土) ~ 2月12日(日)
「Sapporo Parallel Museum 2023」
場所:札幌市内6会場

・2023年3月31日〜
「solo exhibition(タイトル未定)」
場所:GALLERY SCENA

 

INTERVIEWER & TEXT & EDIT